人はみんな違っていて当たり前【森博嗣】 新連載「日常のフローチャート」第17回
森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第17回
【戦車の模型に夢中になっていた】
今年の初め頃からずっと、戦車の模型で遊んでいる。新しく買ったのではなく、ずいぶん昔から持っているものを修理して、久しぶりに走らせた。戦車というのは、戦争の道具だから、それだけで毛嫌いする人が多いだろう。ウクライナやガザの戦争でたびたび登場する、人を殺すための道具である。戦闘機も銃もそうだし、日本刀も鎧もそうだ。このように突き詰めていくと、包丁だってバールだってアイスピックだって……。
ノルウェイでは電気自動車が広く普及している。そうなったのは、政府が補助し、充電施設なども整備されたからだが、それができたのは、石油を輸出して潤う財政があったからだ。つまり、国外で二酸化炭素を出させて、自国だけは綺麗な空気にしたわけである。この石油は、戦闘機や戦車の燃料にもなる。戦争をするために最も大事な資源ともいえる。戦争をしたい国へ石油を送れば喜ばれるが、では模型の戦車を送ったら、どう思われるだろうか? 「こんなもの何の役に立つのか?」と叱られるはずだ。
つまり、模型の戦車よりも、石油の方がずっと「武器」なのである。形が似てい
子供が「戦車が格好良い」というのは素直な感情であり、「武器だから嫌い」という大人の多数派の観念を押しつけるのには、注意を喚起したい。
文:森博嗣
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世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?
森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。
〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。